弊社開催のセミナーでもお世話になった和訳の中村先生との共著を出版させていただきました。
『和訳と英訳の両面から学ぶテクニカルライティング』(講談社サイエンティフィク)
例えば、和文には主語がないことが多く、英文には主語が必要なので、英訳が想定される和文には主語を入れるように、というようなことがよく言われると思います。
一理あるのですが、しかし、日本語の特徴自体は悪いものではないとも個人的には考えることがあります。そんなとき、日本語の「主題」という考え方を知っていれば、英訳するときに便利だと思うのです。日本語の主題、つまり「~においては」は、英文では主語にできることが多いためです。
なお、私自身はいつも英訳をしていますので、「~においては」を見ると、自動的にそれを英文の主語にします。そのときの私の頭の中では、「英文で文頭に出る句を減らしたい」という観点と、「英文は上位概念が主語」という観点、つまり英語目線のルールが働きます。しかし、そのときに同時に日本語目線のルールも知っていると、便利だと思うのです。つまり、日本語では、「は」を使った「主題」という形で情報を提示することができ、日本語の場合、「主題」が主語であるときと、そうでないときがあるという点です。
和訳の中村先生の記述「和文ではこのように、一人称の主語や文脈上重要でない主語が省略される傾向があります。英文には主語が必要なので、英訳されることを想定した文章で主語を省略することは好ましくないと考えがちですが、上の文のように、主題が明示されていれば、主語がなくても、それほど問題ありません。」(本書より)
このようなことを知っていると、和文に主語がない場合であっても、「主題」があれば、簡単に英文の主語を見つけることができ、スムーズに英文を書いていくことができると考えています。
このような、日本語と英語の違いに関して、一歩踏み込んだ内容に触れていただくことができるのが本書の特徴であると考えています。
そして、本書で心がけたのは、共著でありながら、できるだけ統一のとれた一冊の本として読者にお届けすること。中村先生の執筆パートは本の右端ラベルの「日本語」に色付け(黄色)がしてあって、中山の執筆パートは「英語」に色付けがしてあります。また、両者のコラムも同様に、自身の執筆パートにそれぞれ配置してあります。それぞれの著者の特徴があるものの、個々がそれほど目立たないように仕上がっているのではないかな、と考えています。
読者の方々のお役に立てることを願っています。