翻訳の原稿を開くときは胸が高鳴ります。
初対面のあなたは、誰ですか?
原稿を開き、あなたでしたか、そうですか。
今回の原稿は「○○」
特許出願明細書のタイトルですので、例えば「情報処理装置」とか「マイクロ流体デバイス」とか「太陽光発電装置」とか。
よろしくお願いします、という気持ちになります。
そしてこの気持ちは、翻訳作業が終わるまで続きます。
初対面のときだけでなく、翻訳再開のために開く原稿にもいつも「想い」があります。
それはおそらく原稿を敬う気持ち。尊い翻訳原稿、上手く英語にしたい。
どのような種の日本語原稿であっても、この気持ちに20年間、変わりがありません。
一方で、他の翻訳者が訳した英文のリライト用の原稿を開くときは、実は平静な自分。
私はおそらく英→英リライトが得意です。素早く、効果的にリライトできます。
翻訳業でも講師業でも英→英リライトは私の一部となっていますから、どんな状況であっても進んでリライトを行います。しかし、向き合う感情はいつもクールです。
リライトはI do this because this is what I do.というような感覚。一方の翻訳は、「畏れ(おそれ)」と「ワクワク」が混ざりあうのです。
仕上げる結果物は同じなのですけれど、おそらく自分が全て決める状態で一から翻訳するから、襟を正すような気持ちになるのでしょう。
目まぐるしい日々のなか、たまに頭に描きます。
ゆっくりとリタイアして、水か空が見えるどこか小さな家。毎日十分な時間を使って特許翻訳をして過ごす自分・・・。
このことを知人に口が滑ってしまったとき、知人が不思議な顔をして私に尋ねました。
リタイアというのは、仕事を離れることを言うんだよ。
リタイアしてゆっくり翻訳するというのは、論理は正しい?
その知人はシンガポール人だったのですが(数少ない友人のうちの一人)、彼女がOnly friend can understand you. と言いました。
さて、2月はご依頼が例年多く、大変ありがたい月でもあります。翻訳ができる幸せをかみしめながら、まずは春がくるまでの間、邁進したいと思います。
ご依頼くださるお客様に心より感謝しています。