ユー・イングリッシュ代表取締役 中山 裕木子のブログ


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Teaching is learning: 「be動詞」について考えたこと

理系学生への授業を続けています。

 

2006年に大学での講師業を開始して以来、この15年休んだ年はなく、複数大学での授業を続けてきました。

やめてしまうことは簡単ですので、できるだけ難しいほうを選んで、これまで仕事をしてきました。

 

理系学生の理詰めの質問や指摘に直面することは、私にとって、技術英語を見直す良い機会になってきました。

 

振り返ると、様々な指摘や質問を投げかけてくれた学生たちや教員の先生方の姿が浮かびます。冷や汗をかきながら、毎週、英語の宿題を持ち帰ったことも思い出します。

 

■例えば「状態」を表すstate, status, conditionの違いに気付いたのは、ある学生からの指摘がきっかけでした。

 

「超伝導」の話をしているときでした。「超伝導」とは現象phenomenonでもあるわけですが、超伝導体の状態でもあるわけです。「金属の状態」を表すのに、ある学生がconditionという単語を使ってきました。

 

私は英文構造に焦点を当ててその場でのリライトをしていまして、condition→stateに修正することを失念したまま授業を進めました。

 

直後、別の学生が指摘をしました。

 

「超伝導という現象は、何か外的に変化するようなものではなくて、その物質自体が発現するものですから、conditionではなくstateです。」

 

・・・確かに。

 

その後、「状態」に関する考えをとりまとめました。

私が考える「状態」の使い分けはこうです。

 

■stateとは、the state of being、つまり「そのものの状態」。the state of piece(平穏な状態)などから理解を深めてもよい。

使用例は「運転手の状態」「金属の状態」「装置の状態」など。

 

■statusとは、カタカナ語「ステータス」ともあるように、何らかの分類(category)に分けられるもの。例えばコピー機の「スタンバイ状態」などと「名前が付けられる」ような状態を表します。

 

■最後にconditionは、good condition, poor condition(良い状態、悪い状態)のように、「良い~悪い」というように「あるspectrum(範囲)」があり、そのうちの複数状態のうちの1つの状態(つまりlevelのようなイメージ)を指します。

conditionについて少しわかりにくい書き方をしてしまいましたが、もっと気楽に考える場合には、conditioned airは「調整した空気」、「エアコン」はair conditionerです。「あるspectrumの中で望ましいほうへと調整をする」というconditionという動詞と関連付けても、名詞のconditionは理解がしやすい。

ですから名詞のconditionは「温度」とか「湿度」のようなパラメータにも使う。また一方で、自分の「体調」というときにphysical conditionと表したりもするわけです。

 

 

こんな風に、自分なりに理由付けをするきっかけとなるのは、自分に生じる疑問に加えて、他人による指摘も多かったです。

その「他人」として、物事をいつも理詰めで考え、日々難しいテクノロジーの疑問への理由を見出そうと努力をされているの理系研究者は、私にとっては最高の協力者となってきました。

考えるきっかけを与えてくれる上に、自己分析によって英語の世界を解読する力も素晴らしい。

 

 

さて、まえがきが長くなりましたが、今回は、つい数日前、150名くらいの理系学生に英語論文の講義をしたときに得た「気付き」です。これ、長年のモヤモヤが解消した質問でした。

 

 

講義中の私:英語論文ではつい「主語が大きく」なってしまいますので、動詞を早く出しましょう。頭でっかちな主語を避けましょう。

 

学生の質問:頭でっかちな主語を避けるとのことでしたが、このような文は良い例として示されることがあります。これは例外なのですか。頭でっかちが例外かどうか、どうやって判断すればよいのですか?

 

ダメな頭でっかち例1:________________ is presented.

ダメな頭でっかち例2:________________ has been developed.

 

許容な頭でっかち例1:________________ is unclear.

(~は不明瞭である)

許容な頭でっかち例2:________________ is a challenge.

(~は難しい)

許容な頭でっかち例3:________________ is the subject of interest.

(~は注目されている)

 

 

許容な頭でっかち例3(~は注目されている)などは、論文でも多く目にすることがあります。頭も大きいが、述部も若干大きくして、the subject of interestと「the」も使って固く表現しているのでOK、などとこれまで学生に説明したことがあります。この説明、説得力があるような、無いような・・・。

 

さて、今回質問を受けた直後には、「頭でっかち+受け身」をまずは避けてみてください。例えば、ダメな頭でっかち例1:________________ is presented.であれば、無生物主語を立てて、The paper presents ________________.としたり、We have developed ________________.とすれば避けられることがあります、と解説をしました。

 

 

しかしその後、改めて考えた私の気付きは、次の通り。

 

■そのカギは「be動詞」にあります。

 

be動詞というのは、「状態」を表し、主語を定義します。

 

I am a translator.で「自分」=「翻訳者」と定義します。

I translate technical documents.と比べて、静かに状態を定義する分、しっかりと主語を受け止める、というように考えられます。

 

ですから、主語が長くなっても、その主語をしっかりと受け止めて、それを定義する述部、つまりC(補語)の部分へと、情報を受け渡してくれるのです。

 

________________ translates technical documents.のように主語が長いと、読み手は他動詞が出てくる頃にはすっかり疲れてしまった上に、そこから他動詞と目的語による「ダイナミックな動作」を読まなくてはいけない。負担が大きい。

 

一方で

________________ is _____________.という表現では、be動詞が「力持ちな手」を広げて、主語を支えてくれる。そして、「述部とはイコールですよ!」と表してくれるので、読み手は安心して述部を読めるのではないでしょうか。述部が長い場合であっても、短い場合であっても、大きな難なく読める。

 

そんな風に「頼りになるbe動詞」も上手く使いこなしたいものです。

 

■頼りになるbe動詞の姿を論文から見てみましょう。

However, knowledge of preferences and uses of UGS by urban dwellers is still lacking.

(lacking = 形容詞・不足している)

タイトル:Environmental and socioeconomic factors influencing the use of urban green spaces in Coimbra (Portugal)

SCIENCE OF THE TOTAL ENVIRONMENT、巻792、記事番号148293、発行OCT 20 2021

 

なお、due toでバランスを取っているような場合もあります。

Historically, preventing and controlling pandemics in cities has always been challenging due to various factors such as higher population density, higher mobility of people, and higher contact frequency.

SUSTAINABLE CITIES AND SOCIETY、巻72、記事番号103034、発行SEP 2021

 

加えて、be動詞をremainに変えたSVCも魅力的です。

Assessing and quantifying the options for SI remains a challenge due to its multiple dimensions and potential associated trade-offs.

ECOLOGICAL INDICATORS、巻129、記事番号107870、発行OCT 2021

 

 

上記はWeb of Scienceというデータベース(クラリベイト社提供)を使って検索した論文からお借りしました。

 

 

このように、毎回の学生の疑問を自分の中で咀嚼して、次の講義ではもう少し上手く学生の質問に答えられるように準備をしておく。それが、これまで私が行ってきた方法です。

Teaching is learning.です。

 

 

さて、次のオンラインセミナー(無料)では、上記を少し解説に取り入れる予定です。

先日質問してくれた学生が参加してくれるとよいのですが・・・(講義内での回答の補足になれば、と願って)。

 

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2021年9月16日(木)14:00-14:45 

オンライン開催『英語論文アブストラクトの執筆が上手くなるには』

https://interest.clarivate.jp/202109_16_webinar_wos(お申し込みサイト)

お申し込みをいただけましたら、録画の配信もあります。

どなたでもご参加いただけます。使用する資料は開始1時間前に配布させていただきます予定です。

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関連して、クラリベイト社のブログにもお邪魔しています。

関連ブログ:https://clarivate.com/ja/blog/wos-uenglish-collaboration-2021_09/

 

 

みなさまにお会いできますことを楽しみにいたします。