昨年から取り組んできたもう一つのプロジェクト、翻訳本を出版させていただきました。
どうか皆さまのお役に立てますように。
ACSスタイルガイドは、日英技術翻訳者で技術英語講師である私の愛読書です。読むと頭の中がクリアになり、まっすぐに英語を書き進めることができます。根拠をもって、理系学生の論文英語を指導することができます。
ACSスタイルガイドのページをはじめて開いたときの感動は忘れられません。日々悩んでいた英語の書き方に「答え(=指針)」があったことに驚き、一気に読み進め、私のACSスタイルガイドは付箋だらけになりました。指針があることを知ったことで、どのような場面でも、自分自身で英語の書き方を決めていけるようになりました。
科学技術分野の情報を世界に発信するためには、正確、明確、簡潔に英語を書くことが必須です。しかし、文法的な正しさに加えて、どのような英文を書けば情報が早く的確に伝わるのか、どのようなスタイルで英語を書くべきかということを日本で学ぶ機会は限られています。その結果、難しく複雑に書いてしまったり、数や表記の規則を知らずに書き進めてしまったりすることがあります。
一方、欧米諸国には、「スタイルガイド」と呼ばれる「文書の書き方の指針を示す書」が数多くあります。各学会や企業、団体が「英語の書き方」を定めたもので、その中身の大半が共通しています。いずれのスタイルガイドにも、「読み手が迷わないように書く」というまっすぐな指針が示されています。
そのような数あるスタイルガイドの中でも、特に明快に私たちを導いてくれるのが、アメリカ化学会による「ACSスタイルガイド」です。化学分野の例文が使われていますが、そこに記された内容の多くは、分野を超えて幅広く実務文書に活用できます。
例えば4章「文体と語法」には、明確で簡潔に書くための表現のコツが詳細に書かれています。9章「文法、句読法、スペル」、10章「編集スタイル」、11章「数量表記、数学的表記、測定単位」には、正確に書くための表記の決まりが詳細に書かれています。他の章では、英語論文を書くのに役立つ内容(第1部の1章、2章、3章他、第2部の14章から16章)、化学分野特有の表現の決まり(12章、13章、17章)が記されています。
全体構成は次の通りです。
第 1 部 科学分野の表現技法
1章 科学出版における倫理規範
2章 科学技術論文
3章 編集プロセス
4章 文体と語法
5章 Webシステムによる投稿
6章 査読
7章 著作権についての基本知識
8章 マークアップ言語と構造化文書
第2部: 表記の指針
9章 文法,句読点,スペル
10章 編集スタイル
11章 数量表記,数学的表記,測定単位
12章 化合物の名称と番号
13章 化学の通則
14章 参考文献の記載方法
15章 図
16章 表
17章 化学構造式
18章 文献一覧
本来であれば、英語で書かれたスタイルガイドを日本語に訳す必要はないかもしれません。英語のまま理解したほうが明快でわかりやすいこともあります。しかし、ACSスタイルガイドに書かれている情報を取り出しやすくし、多忙な研究者 や実務家の方々の時間を節約し、より多くの日本人にACSスタイルガイドを手にとっていただきたいと考え、同書を翻訳することを志願しました。
スタイルガイドを使って、まずは、書き方の規則や推奨される英語の技法を「知ること」が大切と考えています。その先は、自分自身で取捨選択することで、最適なスタイルを確立できると考えています。
英文を書かれる研究者の方々や実務家の方々が、本スタイルガイドの内容を活用され、自立した英語執筆者への一歩を踏み出されることを願っています。
2019年3月27日 中山 裕木子