ユー・イングリッシュ代表取締役 中山 裕木子のブログ


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「形容詞の魅力」を理系学生への授業から

最近、英語の形容詞は素敵だなと思うことがあります。過去には動詞ばかりに着目していた時期もありましたが、今は一歩進んで、他の項目を見る余裕がでてきました。

 

純粋な形容詞である、例えば、「彼はちゃんとした人です」と言いたいときにHe is sensible.

「ユーザ体験というものは人によって異なる」言いたいときにUser experience is subjective.など、形容詞は一語ですっきりと言いたいことを表してくれる。

 

最近米国人ネイティブの方にお会いする機会がありましたが、その方の口から出たのは

Their development is incremental.(その会社の開発は、少しずつしか、進まないのですよね。)

 

思わず、「Incremental?」「インクラメンター↗」と、ゆっくりとオウム返ししました。

(よく、そんな単語が日常会話で出てくる、さすがネイティブ、と思って、思わず繰り返している自分がいました。なお、このオウム返しには効果があります。沈黙を避けられる、気の利いた会話へと進めやすい、といったことだけでなく、良い単語や表現をオウム返しですぐ口で練習しておくことで、自分がその単語や表現を次に使える可能性が高まるのです。)

 

「Yeah. They do not change drastically, but they change gradually, little by little.」と、すぐに言い換えてくれました。

 

そのように、一語ですっきりと内容を表してしまう形容詞には、英語の大きな魅力があります。

 

さて、そのような純粋な形容詞も素敵だなと思うのですが、「分詞による形容詞」にも、魅力があります。

 

例えばcracked screenは「画面にヒビが入っている様子」を表す。My iPhone has cracks on the screen.やThe screen of my iPhone is cracked.ではなく、My iPhone has a cracked screen.で「iPhoneの画面にヒビが入ってしまって。」を表す。

 

このような「分詞」+名詞による修飾の魅力について、最近書いていた原稿に含めました。本や記事の原稿を書くことで、頭の中が整理されて、ぼんやりした知識や感覚に頼っていた部分が、実際に万能な場面で使えるスキルに早変わりしたり、人に教えられる知識になったりします。

 

さて、早速、先週の担当授業「実践科学技術英語4」で形容詞が出てきたので解説しました。この授業は2年のコースの集大成で、毎回かなり難しい内容に学生たちと取り組んでいます。

 

タイトル:A multi-modal parcellation of human cerebral cortexという英語論文のアブストラクトを読む冒頭のウォームアップ。https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27437579/

 

The freely available parcellation and classifier will enable substantially improved neuroanatomical precision for studies of the structural and functional organization of human cerebral cortex and its variation across individuals and in development, aging, and disease.

 

この文章の英文のなかで、上記下線の部分の成り立ちがよくわからない、という意見が出たので、次のように簡略化して、説明しました。

 

■The classifier will enable substantially improved neuroanatomical precision.

 

neuroanatomy (神経解剖学)の形容詞がneuroanatomicalです。improvement(改善)の形容詞の形、つまり過去分詞がimprovedです。

 

この文章は形容詞を使わなければ、次のように表すところです。

 

The classifier will enable substantial improvement of the precision of neuroanatomy.

(本分類器によって、神経解剖学の精度が大幅に改善すると考えられる)

 

ところがofが2箇所に入って長い。そこで、形容詞2つを活用して、次のようにコンパクトに表しています。

 

→The classifier will enable substantially improved precision of neuroanatomy.(1箇所を変更)

→The classifier will enable substantially improved neuroanatomical precision.(2箇所を変更して完成)

 

どうでしょう。こんな風にコンパクトに表せれば、別の情報を詰め込むこともできるのです。情報を加えた結果、次のように多少長くなったとしても、前から区切りながら、読み手はどんどん情報を追っていくことができます。原文に戻ります。

 

The freely available parcellation and classifier will enable substantially improved neuroanatomical precision for studies of the structural and functional organization of human cerebral cortex and its variation across individuals and in development, aging, and disease.

 

読み方:

The freely available parcellation and classifier will enable

パーセル化や分類器が自由に利用可能になることで、何が可能になるか。

substantially improved neuroanatomical precision

神経解剖学の精度が大幅に改善できるんです。

for studies of the structural and functional organization of human cerebral cortex

用途は人間の大脳皮質の構造的・機能的な機序の研究です。

and its variation across individuals and in development, aging, and disease.

また、そうした機序の個人差や人間の発達、老化、病気における変化についても。

 

こんな風に、長くても、単語の知識の別によらず、難なくどんどん読める文章が、自然科学誌Natureのアブストラクトです。

 

The skill of writing an abstract is saying as much as possible with as few words as possible.(アブストラクト執筆のコツは、可能な限り少ない英単語で、可能な限り多くの情報を含めること)です。

 

そしていかなるライティングでも、語数制限があるアブストラクトのように取り組めば、良い英文が書けることがあります。

 

・・・と、そんな授業を真面目に聞いてくれる学生達に感謝。

 

さて、私自身も、形容詞の魅力をしばらく追い続けようと思っています。