4月に入り、理工系大学院や学部での春期講義がはじまっています。
(講義教室より)
この教室にはじめて来たのは10年前の2006年。
以来毎年、一度も穴を開けずに、講義してきました。
毎年、どんな学生に出会えるかな、と楽しみにする一方で、4月、自分は昨年と比べて成長しているのだろうか、ということも、振り返ってきました。
自分の成長、に関しては、大きな成長は無いけれど、毎年毎年、懲りもせずに、新しいことを始めているということだけは、10年間、続けています。
さて、学生さんについて。
既に数回の授業を終えましたが、うん、今年の学生達も、やっぱり、素晴らしい。10年前も、今も、やっぱり、素晴らしい。
この教室で学生達に会うたびに、彼らの、これまで頑張って努力してきたという自信にあふれた姿、かつ、謙虚に新しいことを学ぶ姿勢を目の当たりにし、やっぱり、勉強というのは、しておくべきだ、と思います。
勉強ができるからといって素晴らしいということになるわけではないけれど、やっぱり勉強しておくと、それは自分の可能性を広げてくれるし、また、自分で幸せをつかむための助けになる、と、この教室の学生達を見ていると、思うのです。
そして、授業について。
はじめの数回の講義は、次の3つに焦点をあてています。
- 3つのC(正確・明確・簡潔)
- 名詞
- 動詞
●3つのC(正確・明確・簡潔)
読み手のために書くために必要な「3つのC」。これは、コミュニケーションの大前提となります。
●名詞
具体的には、名詞の「数」と「冠詞」です。冠詞や数について、多少誤っていても、不具合が生じないことが多いのでは、という意見も、あります。確かに、例えば冠詞を多少間違ったからといって、不具合が生じないこと、もありです。
しかし、冠詞や数が、不具合を招くことや、冠詞や数の失敗により、理解できない文章に完成してしまうことも、あります。
また、「数」と「冠詞」の考え方や使い方を制覇すれば、書き手にとっての負担、書く時のストレス、が大幅に軽減されます。
したがって、「名詞」は、講義全体を通じて、大切に学んでいきたい内容となります。
●動詞
英文では、「動詞」が文章の構造を決め、伝える内容を、決めていきます。したがって、動詞の習得は、必須事項です。
授業では、動詞の基礎文法事項から、動詞の選択、そして時制や助動詞や副詞といった、動詞の「まわり」についても、固めます。
さて、先日の授業では、名詞の細かい習得の中で、accumulationという言葉の扱いに
受講者から疑問が出ていました。
「ケイ素の蓄積」、という文脈だったのですけれど、accumulationにtheをどうしても付けたい人、逆にtheを付けたくない人、そして、数えたい人、数えたくないと感じる人、と、皆、色々でした。
今回の文脈では、silicon accumulationで良かったのですけれど、「様々な可能性を探る」、ということは、理解し、納得して自分で表現を決めていくために、非常に、重要です。
また、「accumulationについて当てはまることが、他の…ionの形の動詞の名詞形すべてに同様に当てはまるかどうか」、という点も、議論が出ていました。
それについての私の考えは、次の通り。
「一概に当てはまるルールが見つかれば簡単なのですけれど、各動詞によって、使われる文脈が、異なります。従って、完全に同じようには、扱えないです。」
「例えば、動詞の名詞形、という点で同じでも、その動詞が持つ意味に応じて、数える文脈の想定が多い場合と、そうでない場合とがあります。」
「しかし、この場合はなぜそのようになり、この動詞の場合はなぜそうなるのか、とその都度よく考えることで、様々なケースにも、個別に自分で対応する力がつきます。」
●accumulationの説明のときに、少し引用した辞書の定義:
(ビジネス技術実用英語大辞典V5 英和編& 和英編 CD-ROM 版より)
accumulation
*蓄積, 積み重ね; an ~蓄積した物, たまった物[金銭]
◆the accumulation of charge 電荷の蓄積
◆accumulations of up to 7 inches were reported (最高)7インチまでの積雪が報告された
◆the accumulation of empirical experience (理論ではなく, 観測や実験に基づいた)実際的な経験の積み重ね[蓄積]
◆with little concern for the accumulation of dirt 塵が積もることをほとんど気にせずに
◆prevent accumulation of cholesterol in the liver コレステロールが肝臓にたまるのを防ぐ
◆counter the accumulation [buildup] of static electricity 静電気の蓄積を抑える
***
この辞書の定義から理解できることは、次のとおり:
– accumulationは可算・不可算のいずれも可能
– the accumulation of charge, the accumulation of empirical experienceなどのようにtheからof …までをひとまとまりにくくりって表現したい場合には、theが有効
– または、with little concern for the accumulation of dirtのような場合には、「塵が積もることを本来は気にする必要があるのだけれど、今回は気にしなくてよい」というように、文脈上、「問題としてあるもの」としてのtheが付いていると思われる
同様に、counter the accumulation of static electricityも、「既にある問題」としてのthe accumulation of static electricityとthe付きで書かれていると思われる
– 一方で、prevent accumulation of cholesterol in the liverでは、コレステロールが肝臓にたまることが起こるかどうか分からないけれど、それが起こりえる場合に、それを防げる、という書き方なので、accumulation of…という同じ形であっても、accumulationの前にはtheが無い
このthe無し表現の場合、次のように、読み進められる:
prevent (防ぐのです、何を?)
accumulation (蓄積を、何の?)
of cholesterol (コレステロールの)
in the liver(肝臓にたまるのです)
冠詞theが無いことで、このように、前から順に区切りながら、ゆっくりと、読み進めることができる
***
このような表現の精査と解説とともに、受講者の皆さんの意見を聞きながら、「それでは、今回の文脈と、今回の英文の組み立て方の中では、どのように冠詞と数を選択するのが、最も適切に状況を表し、かつ、最も読み手の負担が少ないでしょう」、というように、表現を決めていきます。
特に研究者の方々にとって、自分の研究に関する項目は、theを付けたい、と感じられる場合が多いように思います。
一方で、書き手のそのような「特定したいという強い気持ち」と、知らないものについてthe付きで知らされる場合の「読み手の負担」、のバランスを考えて、表現を決めることも大切です。
受講者の「このように書きたい」「このように表現したい」という気持ちを大切にしながら、インタラクティブに授業を進めることを、心がけています。
頭の切れる学生達や、加えて専門分野の先生から、「それではこのルールは~に適応できますか」や、「先の場合は~でしたけれど、今回~といえないのは、~という文脈の微妙な差異によるものですね」、などと、上手くまとめてもらったり、各種指摘してもらったりすることも、多くあります。
彼らの素晴らしい点は、「このような考え方が有効」という、理由付けについて理解してもらうと、後はどんどん、自分で考え、発展させていかれるところです。
私にとって理系大学生・院生への授業は、理工系の研究者の方々の思考回路を理解するとともに、英語表現についても一緒に分析し、学ぶことができる、貴重な勉強の機会ともなっています。
今年もエンジンがかかってきました。日本の将来を支える研究者の方々のために、Serve!