発明について記載する「特許明細書」の日本語には、一読すると理解しづらいような表現が多く出てくることがあります。
それも、明細書によって、書いている人によって、表現が異なり、この明細書作成者は●●という表現が頻出する、この作成者は、△△という表現を好むようだ、そして同じ表現であっても、異なる明細書中では大きく違うことを意味している、といったこともあります。
これについて、拙著「外国出願のための特許翻訳英文作成教本」では、和文作成者に寄り添い、その人の「癖」をも理解することが大切、といったことを、書きました。
今回英訳担当していました特許明細書で、和文作成者の気持ちが読めない箇所が、最後まで、数点、残っていました。
この日本語を、この内容に使っている意図は・・・、と疑問に思いながら、全体のリライトを、重ねてきました。
個人的に、私はリライトに、かなりの回数を重ねます。
その中で、完全に納得出来ていない表現であっても、なんとか誤りだけは避けられると思われる英語に訳すことが出来るのですが、それでもなお、和文作成者の気持ちが、理解しづらいという箇所が最終段階の直前まで残ってしまう、という時が、まれにあるのです。
今回も、最終段階のリライトの直前まで分からないことがありました。
しかし、直前で、ようやく、分かりました。
「●●」とは、こういう感じの時に、この方が使われる言葉だったんだ・・・。
今回はもう、「ひらめき」といった感覚でした。
明細書翻訳では、言葉の端々を、よくよく、吟味する必要があると思っています。
問題となる表現(分かりにくいと思う表現)の箇所だけではなく、別の箇所の日本語も合わせて、その和文作成者の「思考」を理解するために、吟味する必要があります。
同じ案件の「和文」と「英文」に何度も向き合っていると、それを書いた人が、どのような日本語の癖を持っている人か、ということが、徐々に、分かってきます。
そして最終段階、やっとのことで、疑問だった色々な部分が即座につながり、すっきりとした状態で、英文の最終リライトへと、すすめるということがあります。
ある程度の経験則が理解を進めてくれる場合でも、しかしいつまでも、このような「リライト」の過程が、私には、必要です。
特許翻訳をはじめて15年以上がたった今も、この過程を短縮することが、できていません。
自分の「内容理解力」がすごく遅いのか、それとも、担当する和文の構成がたまたま難しいのか、分かりません。
しかし大切なことは、自分の弱点を認め、補強して、翻訳過程の途中で、必ず、「挽回」を図ること。
そして多くの場合、リライトに長い時間を割くことができれば、「挽回」が可能になると考えます。
そのためには、他の段階での基礎がおろそかにならないように、仕事をできる限り早く的確にできるようになっておくことは、日英特許翻訳者にとって、大切だと思っています。
さて、今回も大切なお客様の案件を納めることが出来て、安堵しました。
ご依頼くださったことに、感謝しています。