ユー・イングリッシュ

ユー・イングリッシュ 中山裕木子 ブログ

目的を明確にするとよいこと(特許翻訳より)


特許翻訳はいつも修行・・・。

なぜかどうしても訳せない、上手く表現できない、という言葉に出会うことが、いつまでたってもあります。

 

そのように感じてしまった時は、少し俯瞰的な目で、「なぜ訳せないのか」の原因を探ります。

 

ある案件で、どうしても位置関係が上手く表せないものがありました。

ただその位置について描写すればよいのであれば、英語で表現することはどんな場合も可能だと思うのですが、そこに原稿の「日本語」が存在するため、時に難しくなることがあります。

 

この「日本語」を書いた人はどのように考えて、この位置を定義しているのか、を考えます。

 

例えば「Aの位置」を基準にして「Bの位置」を定義しているのだけれど、どうしても、訳せない。

 

なぜ訳せないのか・・・。

 

分かった、「Aの位置」を基準にしていることに少し無理があって、本来その文脈では「Cの位置」を基準にして「Bの位置」を定義するのが自然だから、訳せない、ということに気づきました。

 

「なぜ訳せないか」を冷静に判断すると、色々なことが見えてくることがあります。

 

さてその少しの矛盾(和文での情報や論理の飛び)に気づいた後、ではどうすればよいか。

 

「Cの位置を基準にして書いてもよいですか?」

 

・・・という提案は、明細書作成者ではない私たち翻訳者には、なかなか、言えないことなのです。

 

和文に使われている「Aの位置」をなんとか英文に登場させつつ、「Cの位置」を大きく登場させることなく、それでも英語でもなんとか「読める」ように、英文を仕上げる。

 

時に、おそらく、「もういいや、和文にこう書いてあるから。位置関係が伝わらないかもしれないけれど、和文に書いてあるんだから、いいや。図面もあるし。」、と、さじを投げ出したくなる誘惑が、迫ってくるのでしょう。

 

そこで、今日も、思い起こしたこと。

 

何のために、この文書を、提出するのか。

 

そう、適切な権利化を目指すため。

 

特許翻訳者は、お客様である和文作成者のその先に、さらに「審査官」が、見えていなくては、いけない。

 

「ダメだ」「ダメだ」、英文は、最終的に、「伝わる」ものでないと、いけない。

 

和文を大切にしながら、それをなんとしてでも、英語として「伝わる」ものに、しなくてはならない。

 

 

和文を改変することなく、「Aの位置」を英文表現にしっかりと残しながら、でもまるで「Cの位置」から定義した時と同じように、「Bの位置」が一読して分かるように、なおかつ英語として自然なように、定義する。

 

 

今回の対処法は、次の通り。

 

さらによく考えると、和文作成者の頭の中にも「位置C」が存在するようでした。

「位置C」を頭の中の前提においた上で、Aの位置を「補足」として登場させている、ということが、和文の随所から、分かりました。

 

なぜ「位置C」が書いていないかというと、「位置C」のことが別の文脈で直前で出てきているので、省略されたものと思われます。

 

対処法は、次の通り。

「位置C」は直前に別途出ているので、位置Cを英文に登場させることは、英訳の範囲内と考え、位置Cを英文にも登場させました。その上で、位置Aを使って位置Bを説明する、また、説明の単語も、当初考えていた表現とは変えて、位置Cとの関係で説明が上手くいくものを、選びました。

その上で、位置Cを登場させたことを、翻訳注に簡単に書いておきました。

 

うん、「読める」表現になった。

折衷案ではありますが、和文からの英訳の範囲内に収めた上で、「読める」「分かる」表現になった。

 

なお、お客さんによっては、また案件によっては、「和文からの変更」を結構許容くださる場合もあるのですが、それでも、それをご提案する場合のお客さんにとっての時間のやりとり、つまりお客さん側の確認のための時間コストを考えると、和文の範囲内にいつもおさめることは、大変重要と考えています。

 

さてさて、本題に戻り、「まあ、いいか。和文に書いてあるし。伝わりにくくても、仕方ないか。」、という誘惑に翻訳者自身が打ち勝つためには、特許翻訳を行う上での「目的意識(=英語が審査を妨げず、余計なOA(拒絶)の原因にならず、審査官がきちんと審査できる英文に仕上げること)」を持つことが、役に立つと、再確認しました。

 

 

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