ユー・イングリッシュ

お問合わせ:075-604-5670(月~金 9:00~17:00)」

オンライン連載

第21回【Natureアブストラクトから表現を吸収する】

 日英翻訳の力を付けるためには、英語を書き続けることに加えて、良い英語を読んで吸収することも大切です。ではどのような英語を、どのように読めばよいのか、また多忙な業務の中で効率的に英語を吸収するためにはどうすればよいのか、という疑問を聞くことがありました。そこで一例として、自然科学誌Natureのアブストラクトを精査することを、ここに提案します。
 日英翻訳業務では、技術背景を調べるために多くの英語を読む必要がありますので、その中で英語表現を吸収することも当然可能です。一方、そのような業務の範囲内の英語だけでは物足りないと感じる場合に、気分転換に、自然科学誌Natureのアブストラクトを読んでみるとよいでしょう。Natureの英語は、3C【正確・明確・簡潔】表現の宝庫です。たった200ワード余りのアブストラクトの中から、良い英語表現を、効率的に見付けることができるでしょう。着目する文法事項や表現を自由に設定して、読んでみるとよいでしょう。

 「鳥類の全球レベルでの空間的および時間的な多様性」を邦題とする、次のNatureアブストラクトを読んでみましょう。全体像を眺めたり、一文ごとに細かく英語を精査したり、動詞や名詞に着目したり、良い表現や使えそうな表現を探しながら、自由に読むとよいでしょう。なお、日本語に訳そうとせずに、英語のまま読むことが大切です。知らない単語があっても、どうしても意味を知りたい場合以外は調べず、大まかに内容を理解します。一通り読んで内容を理解し終えたのち、純粋に英語に着目し、表現を吸収するとよいでしょう。

Nature 491, p444–p448

タイトル:The global diversity of birds in space and time
アブストラクト:
Current global patterns of biodiversity result from processes that operate over both space and time and thus require an integrated macroecological and macroevolutionary perspective. Molecular time trees have advanced our understanding of the tempo and mode of diversification and have identified remarkable adaptive radiations across the tree of life. However, incomplete joint phylogenetic and geographic sampling has limited broad-scale inference. Thus, the relative prevalence of rapid radiations and the importance of their geographic settings in shaping global biodiversity patterns remain unclear. Here we present, analyse and map the first complete dated phylogeny of all 9,993 extant species of birds, a widely studied group showing many unique adaptations. We find that birds have undergone a strong increase in diversification rate from about 50 million years ago to the near present. This acceleration is due to a number of significant rate increases, both within songbirds and within other young and mostly temperate radiations including the waterfowl, gulls and woodpeckers. Importantly, species characterized with very high past diversification rates are interspersed throughout the avian tree and across geographic space. Geographically, the major differences in diversification rates are hemispheric rather than latitudinal, with bird assemblages in Asia, North America and southern South America containing a disproportionate number of species from recent rapid radiations. The contribution of rapidly radiating lineages to both temporal diversification dynamics and spatial distributions of species diversity illustrates the benefits of an inclusive geographical and taxonomical perspective. Overall, whereas constituent clades may exhibit slowdowns, the adaptive zone into which modern birds have diversified since the Cretaceous may still offer opportunities for diversification.

一例として、次のポイントに着目して、順に解説します。

着目ポイントの例:
- タイトルの名詞(冠詞Theや単複)
- 動詞の種類(自動詞result, remain、他動詞require, advance, identify, limit, undergo他)
- 時制(現在形→現在完了形→現在形→助動詞表現)
- 文章同士のつながり

■タイトルに着目

 論文タイトルは、不要語が一語も無く、かつ読みやすく書く必要があります。また、名詞の単複を工夫することも、読みやすいタイトルに仕上げるために役に立ちます。

The global diversity of birds in space and time

<着目ポイント:タイトル頭のThe>
 定冠詞Theからタイトルを開始しています。
 通常、論文タイトルの冒頭の冠詞theは、省略してもよいことになっています。例えば、化学分野の代表的なスタイルガイドであるThe ACS style guide, 3rd editionには、次のように、冒頭のtheは省いてよい、との記載があります。

In most cases, omit “the” at the beginning of the title.

Standard Format for Reporting Original Research, Title
The ACS Style Guide, 3rd Edition

 今回の論文タイトルでは、冒頭にあえてtheを使うことで、The global diversity of birdsを、一まとまりとして、読み手に一気に読ませる効果があります。単語diversityは不可算で使えますので、theが無くても文法的にも問題が無いわけですが、theがある場合と無い場合を次のように読み比べてみると、印象の違いを感じることができるでしょう。

冒頭のTheあり・無しの印象比較:
 Global diversity of birds in space and time
 The global diversity of birds in space and time

 解説:Theを使っていることで、タイトル全体が引き締まり、Theからbirdsまでを一気に読ませる効果が見られる。

<着目ポイント:birds>
 今回のタイトル邦題中の「鳥類」に対して、英文タイトルでは、birdsという単なる複数形表現を使っています。つまり、「種」にあたるspeciesやkindsといった単語を使わずに表しています。
 日本語は、数の概念が希薄です。「数」を表さなくても名詞を表現できるため、逆に「数」、特に「複数」を明示するためには、「種類」や「タイプ」として表現することが多くなります。一方、英語はもともと単複を明示して名詞を表すため、名詞を複数形にすることで、「複数の種類」を表すことができます。今回は、単なる複数形のbirdsと表すことで、タイトルに不要語を含めず、読みやすく書いています。

■動詞の種類に着目(前半のみ)

 次に、アブストラクト前半の第1文から第6文まで(129ワード)に存在する「動詞表現」に着目してみましょう。

第1文Current global patterns of biodiversity result from processes that operate over both space and time and thus require an integrated macroecological and macroevolutionary perspective. 第2文Molecular time trees have advanced our understanding of the tempo and mode of diversification and have identified remarkable adaptive radiations across the tree of life. 第3文However, incomplete joint phylogenetic and geographic sampling has limited broad-scale inference. 第4文Thus, the relative prevalence of rapid radiations and the importance of their geographic settings in shaping global biodiversity patterns remain unclear. 第5文Here we present, analyse and map the first complete dated phylogeny of all 9,993 extant species of birds, a widely studied group showing many unique adaptations. 第6文We find that birds have undergone a strong increase in diversification rate from about 50 million years ago to the near present.

<着目ポイント:効果的な自動詞の使用>
 自動詞(直後に目的語が不要)として、第1文にresult from、第4文にremainが使われています。動詞resultは、result in…(結果、~となる)ではなく、result from…として使い、「~の結果生じる」という内容を平易に表現しています。便利で効果的な自動詞の使用例です。次にremainを使うことで、「まだ明らかになっていない(have not become clear)」といった否定の意味を表したい場合にも、notを使うことなく、remain unclearとして、簡潔に表現しています。SVCを作る、便利な動詞表現です。

<着目ポイント:他動詞によるSVO表現>
 他動詞(直後に目的語を置き、SVOを作る)としては、require, advance, identify, limit, present, analyse, map, find, undergoが使われています。第1文のrequire…(=~を必要とする)では、強い強制力を表す動詞requireにより、明快に表現しています。第2文のhave advanced our understanding(=われわれの理解が進んだ)、さらにはhave identified…(=~を特定した)も、力強く、具体的な表現です。第3文のhas limited…(=~に限界を加えてきた)も同様に、明快な表現です。第5文のwe present, analyse and map…(=われわれは~を提示し、分析し、マッピングする)は、それぞれ平易で、理解しやすい動詞です。平易なので、3つの動詞を並べても読み手の負担は軽く、具体的な内容が効果的に伝わります。第6文には、動詞findが使われ、that節内にhave undergone…が使われています。一人称を主語に使ったWe find that…(…であることが分かった)は、ありがちな仮主語を使ったIt was revealed that…(=…であることが分かった)などと比較すると、短い言葉で、明快に表現できます。that節内の動詞undergoは、「~を経る」を意味する他動詞です。無生物を主語にでき、SVOを作れる便利で効果的な動詞です。

 このように、冒頭の数文(6文、129ワード)を読むだけでも、効果的な動詞の使用(自動詞result, remain、他動詞require, advance, identify, limit, present, analyse, map, find, undergo)を、連続して見ることができます。

■時制に着目

 引き続き動詞部分に着目しながら、アブストラクトの全体を見てみましょう。時制の流れを見ると、「現在形→現在完了形→現在形→助動詞表現」へと移行しています。第1文では現在形(result from, require)、第2文、第3文では現在完了形(have advanced, have identified, has limited)が使われ、第4、5、6文から最終2文の前まで、すべて現在形(remain, present, analyse and map, find…)が使われています。最終2文には、助動詞表現(may exhibit, may still offer)が使われています。なお、助動詞とは、動詞が伝える「事実」に、書き手の「気持ち」を加えて表現するものです。
 この例からは、一種のアブストラクトの時制パターンが見えてきます。 つまり、「現在形」にてテーマの技術を導入し、次に「現在完了形」を使ってこれまでの状況を述べる、そして再び「現在形」に戻り、今回の技術、つまり論文で扱う主な内容について記載し、最後に「助動詞表現」にて著者の考えを加え、技術の今後について述べる、という時制のパターンです。なお、過去形の使用が見られない点も興味深く、「今」に焦点を置いて書くことにより、魅力あるアブストラクトに仕上げる工夫が見られます。
 アブストラクトの時制パターンはこれに限らず、内容に応じて様々ですが、時制を工夫することで、アブストラクトの大まかなストーリーを容易に読み手に伝えることができます。

■文章同士のつながりに着目

 最後に、文章同士のつながりを見てみましょう。第1文では、前半部分と後半部分の主語をそろえて書くことにより、1文の中で、and thusを使って、論理的つながりを自然に表現しています。第2文には、つながりを表す言葉は特に出てきません。第3文、第4文で、However, Thus, のように冒頭に文章同士のつながりを示す表現が使われ始めます(なお、これらの文頭語の品詞は副詞であり、文法的には「接続副詞」などと呼ばれることがあります。ここでは「接続語」と呼ぶことにします)。
 その後、第7文では、This acceleration is due to…として既出の内容を受けて、文章と文章をつなげています。そのあとも、第9文、第10文ではthe major differences in diversification rates, The contribution of rapidly radiating lineages…と、既出のtheで開始する文章が増えています。
 アブストラクト全体を通して、文と文のつながりを示すいわゆる「接続語」は、第3、4文のHoweverとThusのみです。ありがちなThereforeといった接続語は使用が見られず、極力、文章の「内容」によって、文章同士が接続されていることが分かります。

第1文Current global patterns of biodiversity result from processes that operate over both space and time and thus require an integrated macroecological and macroevolutionary perspective. 第2文Molecular time trees have advanced our understanding of the tempo and mode of diversification and have identified remarkable adaptive radiations across the tree of life. 第3文However, incomplete joint phylogenetic and geographic sampling has limited broad-scale inference. 第4文Thus, the relative prevalence of rapid radiations and the importance of their geographic settings in shaping global biodiversity patterns remain unclear. 第5文Here we present, analyse and map the first complete dated phylogeny of all 9,993 extant species of birds, a widely studied group showing many unique adaptations. 第6文We find that birds have undergone a strong increase in diversification rate from about 50 million years ago to the near present. 第7文This acceleration is due to a number of significant rate increases, both within songbirds and within other young and mostly temperate radiations including the waterfowl, gulls and woodpeckers. 第8文Importantly, species characterized with very high past diversification rates are interspersed throughout the avian tree and across geographic space. 第9文Geographically, the major differences in diversification rates are hemispheric rather than latitudinal, with bird assemblages in Asia, North America and southern South America containing a disproportionate number of species from recent rapid radiations. 第10文The contribution of rapidly radiating lineages to both temporal diversification dynamics and spatial distributions of species diversity illustrates the benefits of an inclusive geographical and taxonomical perspective. 第11文Overall, whereas constituent clades may exhibit slowdowns, the adaptive zone into which modern birds have diversified since the Cretaceous may still offer opportunities for diversification.

 以上、各種着目ポイントに基づいて、Natureアブストラクトの英語表現を解説しました。このほかにも、色々な着目ポイントが含まれています。例えば明快な前置詞(over, across, throughout)が使われています。また、主語や動詞、補語の形をそろえたパラレリズム(例:Current global patterns…result from and thus require,XX are hemispheric rather than latitudinal)が見られます。同時に、無生物主語の使用(Current global patterns, Molecular time trees…)も数多く見られます。一人称主語の使用(we present…, We find…,)に着目して、その意図を考えてみるのもよいでしょう。さらには、副詞の効果的な使い方(Importantly, Geographically)も見られます。これらのポイントにも自由に着目し、読んでみるとよいでしょう。
 3C【正確・明確・簡潔】英語から学び、純粋に英語を楽しむ時間、英語表現を味わい吸収する時間を、例えば1日30分など、持ってみるのもよいでしょう。

正確・明確に書くために―着目ポイントを決めて良い英語から表現を吸収する

 Natureの英語を精査すると、少ないワード数の中に、3C【正確・明確・簡潔】のヒントが数多く詰まっていることが分かります。動詞の選択、時制、文章同士のつながり、加えて前置詞や無生物主語、パラレリズムなど、生きた英語の3Cテクニックを学ぶことができます。3Cテクニックの知識を得たら、次はそれらを使って実際に英語を書いてみる、そしてその次の段階として、生きた英語から3Cテクニックを吸収することが大切です。それにより、自己流の英語に陥らず、好ましい英語へと調整することが可能になります。このような工夫と努力により、正確で明確に書く力が強化され、確かな3C英語ライティング力を身に付けることができるでしょう。

【Natureアブストラクトから表現を吸収する】のPOINT

  • 良い英語を読み、着目表現を習得する。業務の範囲外の英語も読む努力をし、3C表現を吸収することで、一ランク上へのスキルアップが可能になる。一例として、Natureのアブストラクト英語を精査するとよい。
  • 名詞、動詞、時制、文章のつながり、さらには各種3C表現(無生物主語、パラレリズム他)などに着目して読むとよい。
  • 時制(現在形→現在完了形→現在形→助動詞表現)
  • Natureアブストラクトでは、好ましい自動詞(例:result, remain)や便利な他動詞(例:require, advance, identify, limit, present, analyse, map, find, undergo)が惜しみなく使われ、効率的な英語の吸収に役立つ。現在形、現在完了形、助動詞の使用など、動詞の形(時制)も興味深い。

目次

本連載は、日本工業英語協会による機関紙『工業英語ジャーナル』に2009年6月から2014年6月にわたって連載した「日英翻訳スキルアップ」(中山裕木子著)を元に、加筆修正したものです。

中山 裕木子著 外国出願のための特許翻訳英文作成教本

シンプルイングリッシュのススメ

  • オンライン読み物
  • ブログ
  • 書籍・セミナー情報
  • 採用情報
  • お問合わせ

pagetop