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第14回【注意したい日本語―「任意の」「フロー」】

 日本語を単純に英語に置きかえるのをやめ、日本語が意図している内容をその都度しっかりと考え、3C(Correct, Clear, Concise)に沿った英語で説明することが重要です。日本語「任意の」と「フロー」を扱います。

「任意の」のありがちなズレ 

 「任意の」という日本語表現は、日英翻訳者への落とし穴となりがちです。これを和英辞書で調べると、arbitraryという単語が出てきます。
 このarbitraryは、私個人が日英翻訳の仕事を始めて間もない頃、英国人テクニカルライターに注意をされた単語です。その際、「arbitrary = デタラメ」、と赤字で書き込まれたことが印象に残っています。
 英国人テクニカルライターの指摘通り、arbitraryは「でたらめ」を表します。つまり、「てきとう」という意味です。 一方、技術文書に出てくる「任意の」や「任意に」は、「てきとう(=デタラメ)」の意味で使われていることは非常に少なく、「自由に選択した」であったり、「いずれも可能」であったり、または「その都度適切に選択した」や「所定の」の意味で使われていることもあります。

 例を見てみましょう。

<例1>

メモリ内の任意の領域

ありがちな英訳:
an arbitrary area within the memory ×

解説:日本語が「任意の」であっても、「てきとうに選んだデタラメな領域」ということを和文は意図していない。

リライト案:
an area within the memory / a freely-selected area within the memory / any area within the memory / a predetermined area within the memoryなど

解説:「不特定な領域」「自由にその都度選んだ領域」「どれでも良い領域」が正しい英訳。文脈に応じて適宜選択。

<例2>

算出した値が予め設定された任意のしきい値を超える場合は、その情報をユーザに表示データとして出力する

ありがちな英訳:
a predetermined arbitrary threshold ×

解説:「予め設定された値」は、決して「デタラメ(てきとう)な値」ではない。

リライト案:
a predetermined thresholdなど

解説:「任意の」は訳出不要。「予め設定された、所定の」を表すpredeterminedのみを使う。

 次に、和文の「任意の」が、本当に「てきとう」、つまり「無作為に」を意味する場合もあります。その場合には、arbitraryを使っても別に良いのですが、私個人は、この難解で使いづらい言葉を避け、よりイメージしやすいrandomly(=「ランダムに」「でたらめに」「無作為に」)という単語を使うようにしています。

 一例を見ておきましょう。

<例3>

10個のサンプル中、任意の5つを測定に使用した。

ありがちな英訳:
Arbitrary five samples selected from the ten samples were used. / Five samples arbitrarily selected from the ten samples were used. △

解説:arbitraryを使っても間違いではないが、私個人は使わない。

リライト案:
Five samples randomly selected from the ten samples were used. 

解説:イメージしやすく、自信を持って使いこなせる単語(=randomly)を使うと良い。

「任意の」のPOINT

  • 技術文書中の「任意の」は様々な意図がある。「デタラメ」を表すarbitraryではなく、「自由に選んだ」を表すfreely selectedやany、または単純に不特定表現(不定冠詞または複数の場合無冠詞) を使うか、または「所定の」を表すpredeterminedなど、文脈に応じて英訳する。
  • また「任意の」が本当に「デタラメ」「無作為」の意味である文脈では、「ランダム」「でたらめ」「無作為」を表すrandomlyを使うと良い。意味をイメージしづらいarbitraryの使用はやめて良い。

【表現「フロー」とflowのズレ】 

 次に、手順や過程、プロセスなどを、日本語で「フロー」と言うことがあります。技術文書にも、この「フロー」という表現が、比較的多く見られます。
 「フロー」を英語でflowと直訳すると、英語として不自然な表現となってしまいます。flowの代わりに、「手順」や「過程」を表す具体的な単語を使うと、上手く訳せることがあります。また、「フロー」が訳出不要なこともあります。

例を見てみましょう

<例1>

本処理は,図3の画面情報生成部312において行われる.本ステップで作成した表示内容をクライアント装置103へ送信したら本処理フローを終了する

ありがちな英訳:
「本処理フローを終了する」
The process flow ends.

解説:flowの意味がよく分からない。

リライト案:
The process ends.

解説:不要な言葉を省き、すっきりと構成。「処理」自体に流れがあるので、flowが無くても「一連の処理」を表すことが可能(参考:A process is a series of actions which are carried out in order to achieve a particular result. Collins COBUILDの定義)。

<例2>

図7
図7

図7はバースト受信開始時の高速ビット同期確立処理フローである

ありがちな英訳:
「図7は同期確立処理フローである」
Fig. 7 is a processing flow for the synchronization.

解説:a processing flowが直訳で、よく分からない。

リライト案:
Fig. 7 is a flowchart of the synchronization. / Fig. 7 is a flowchart illustrating the synchronization procedure.

解説:図を見ると、「フローチャート」であることが明らかなため、flowchartと英訳する。

「フロー」のPOINT

  • 「フロー」や「処理フロー」といったカタカナ語は、そのままflowと訳さずに、それが何を意図しているかを考える。文脈に応じて、flowchart(フローチャート), process/processing(処理), procedure(手順)などの単語を使って訳し分けることができる。

正確・明確に書くために―使いこなせる簡単な表現で文脈に応じて訳し分ける

「任意の」にarbitrary、「フロー」にflowを使うと、誤ってしまったり、不適切な印象を与えてしまったりする可能性が高くなります。安易にこれらの対訳を使うことなく、日本語の意図を深く考え、細かいニュアンスまでを正確に表すことが大切です。難解と感じる単語や、確信を持てない表現の使用を思い切って中止し、使いこなせる単語で確実に表現することにより、正確・明確に書くことができると思います。

【注意したい日本語―「任意の」「フロー」】のPOINT

  • 「任意の」の対訳arbitrary, 「フロー」の対訳flowは、不適切な場合が多い。詳しくは、「任意の」のPOINTと「フロー」のPOINT参照。
  • 内容を深く理解した上で、自分の中に備わるボキャブラリの範囲内で、簡単且つ確実に表現することが、スキルアップにつながる。

目次

本連載は、日本工業英語協会による機関紙『工業英語ジャーナル』に2009年6月から2014年6月にわたって連載した「日英翻訳スキルアップ」(中山裕木子著)を元に、加筆修正したものです。

中山 裕木子著 外国出願のための特許翻訳英文作成教本

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