ユー・イングリッシュ代表取締役 中山 裕木子のブログ


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  勉強, 日常 

14年前の私

過去のPCデータの整理をしていましたら、14年前の自分に、出会いました。

工業英検1級に受かり、文部科学大臣賞を受賞した時(平成13年)の「謝辞」の原稿データが出てきました。

 

授賞式で、「謝辞」を読むことになりました。

 

あの当時、まさか自分が人前で話す講師になるなどとは、夢にも思っていませんでした。

人前で話すことは、全くの初めてで、全くの、苦手でした。

 

結構、練習したのを覚えています。緊張しました。

 

原稿を読み返すと、14年前と、自分自身が、ただの一つも変わっていないことに、驚きます。

 

駆け出しの頃も思っていた、次のこと。

 

「学んだ基本ルールを基礎にして、翻訳技術を一層磨く努力を続け、身に付けた技能を社会に役立てたいと思います。そして、私の関わった仕事が日本の経済の発展に大きく寄与することを願っています。」

 

恐れ多いことではありますが、自分の仕事が、ほんの少しでも社会の役に立つことを、今も、昔も、願っています。

 

 

 

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平成13年度文部科学大臣賞 受賞者代表謝辞

 

社団法人日本工業英語協会、工業英検推進委員会、並びにご来賓の皆様、本日はお忙しい中、このような名誉ある表彰式を盛大に開催して頂き、心より感謝申し上げます。各検定級の文部科学大臣奨励賞受賞者を代表し、お礼の言葉を申しあげさせていただきます。

 

私は、工業英検に出会うことができて、心から良かったと思います。工業英検で問われることの実用性の高さが、技術英語に悩まされていた私にブレイクスルーをもたらしてくれたのです。受験対策の勉強で苦労して得たものが、日常の業務の中で、自分の力になっていく事が実感できることも取り組んでよかったと思える理由の一つです。

 

私が「工業英語」に出会ったのは、約5年前です。得意の英語を活かせる仕事を求め、貿易実務担当として工業用薬品メーカーに就職したときのことでした。それまで英語を一生懸命勉強してきたつもりだったのですが、日本語の製品カタログを初めて英語に翻訳しようと試みたとき、薬品や機械に関する単語、技術的な表現方法を全く知らないことに気付き、今まで勉強してきた、“ただの英語”では全く不十分で、実に無力であることを思い知りました。

 

同社では、先輩技術者の英訳を真似て、何とか技術資料等の翻訳をこなしていきましたが、結局は直訳しただけの自己流英語で、満足のいくものではありませんでした。その後、本格的に英語そのものを駆使する仕事に就きたいと、意を決して、特許事務所に転職し、特許翻訳を始めました。それから悪戦苦闘の日々が始まりました。以前の会社で少しばかりは科学に触れたものの、特許に記される技術は日本語ですら理解し難く、それを英語に翻訳することなど不可能に近い状態でした。

 

最初のうちは、先輩の翻訳家やネイティブの方々にチェックをして頂きました。しかし、私の翻訳した文書には、毎回真っ赤になるほどの赤ペンチェックが入っていました。文法的には正しいところにもチェックが入り、愕然として自信喪失することもしばしばでした。チェックされた意味は私自身で検討し、解決せねばなりません。しかし、納得のいく答えは簡単には見つからず、しばらくは全く確信の持てない状態が続きました。そこで、工業英語の勉強をして資格を持つことで、レベルアップしたい、自信をつけたい、そんな気持ちで工業英検1級合格を目指すことにしたのです。

 

工業英検の2級、1級の受験勉強を通じて、テクニカルライティングのための基本ルールについて深く学ぶ事ができました。その基本ルールに従えば、テクニカルライティングを比較的スムーズに、そして完成度の高いものにする事ができます。この基本ルールとは、私の翻訳のバイブルともなったLarry D.Brouhard氏の著書『工業英検1級対策』から学び得たものに他なりません。同書を読み進めていくうちに、次第に私の心の中にあったモヤモヤが、すーっと消えていくのを感じました。同書には、心構えから翻訳技術にいたるまで、その要点がまとめられているのです。

 

まず、心構えとしての“Three foot rule(半径1メートル以内に辞書が無い場合は、ものを書き始めてはならない)”は、すぐに私のルールとなりました。日常の業務に慣れてくると、辞書を引く回数が減りがちになるものですが、常にこのルールを意識し、面倒でも、たとえ納期に追われていても丁寧に辞書を引くように心がけています。多分正しいだろうと思い込んで、間違っていたという経験は少なくありません。

 

そして私は、思い込みと自己流を排除することや、常に疑問を持って辞書を引くことの大切さを再認識することができました。また、翻訳技術として学んだことや共感したことも数多く、関係代名詞のthatとwhichの使い分け、カタカナ(和製英語)に注意すること、受動的文章に翻訳するのではなく、能動的文章の翻訳すること等、思わず、「そうそう!!」と一人でうなずくこともしばしばでした。

 

毎日漠然と疑問に感じていたことや、一人で悩んでいたことのすべてが、このわずか一冊の中に書かれていたのです。工業英検にめぐりあうことができたおかげで、自己流で変に凝り固まってしまう前にテクニカルライティングの基本ルールを身につける事ができました。

 

私が日常の業務としてこなしている特許翻訳は、専門用語が多用されることはもちろんのこと、独創的で新規性のある性質のために、難解で複雑な構造の文章が頻繁に登場します。しかし、そこに記された技術自体は非常にロジカルなものです。特殊な専門用語に馴染みが無くても、独創的な技術に完全にはついていけなかったとしても、基本ルールに従って、理論的に進めれば、きちんと翻訳する事が可能となります。

 

また、私の場合、幸運にも実務として数多くの技術翻訳をこなせる環境にありますので、基礎ができてきたおかげで、技術的な思考や翻訳技術をも同時に鍛練する余裕が生まれるようになりました。

 

特に工業英検1級受験後は、行き詰まることも少なくなって、技術翻訳の仕事自体を非常に楽しく感じるようになりました。合格後は、さらに自信を持って職務を遂行できるようになり、以前よりも充実しています。

 

今後は工業英検で学んだ基本ルールを基礎にして、翻訳技術を一層磨く努力を続け、身に付けた技能を社会に役立てたいと思います。そして、私の関わった仕事が日本の経済の発展に大きく寄与することを願っています。

 

今回の受賞は、技術英語翻訳に自信を持てなかった私にとって、大きな励みとなっています。この気持ちを忘れることなく、翻訳者として、プロとしての道を目指していきたいと思います。

 

平成13年度工業英語能力検定 1級合格  中山 裕木子

 

(*一部原稿を割愛しています。)