ユー・イングリッシュ代表取締役 中山 裕木子のブログ


I want you to find the beauty of English and love English.

  日常, 翻訳, 講師 

クレームが固まると、他は自ずと決まってくる(特許翻訳)

「どんな順序で、明細書を翻訳しますか?」

 

と、先の名古屋セミナーの懇親会で、聞かれました。

 

この質問は、これまでもたまに聞かれることがあったのですが、これまでに、「みんな順序は一緒でしょ」、と思っていた時期が、ありました。

 

なお、拙著にも書いていますが、私は基本的には、普通に、「タイトル」→「従来技術」と訳して、そして当然のことながら「サマリー」を飛ばし、「実施例」を丁寧に訳し、そして最後に「クレーム」→「アブストラクト」→「サマリー」と訳します。

 

「これ以外の訳し方があるのか?」、と疑問に思う時代もあったのですが、ここ最近、私がやっと、重要視できるようになったのは、つまり、浅はかな自分から、ほんの少しだけ進歩したのは、これらの一連の作業の中に、「クレーム英訳」を、同時進行で、挟んでいくこと(?)、です。

 

明細書をゼロから執筆する方は、「クレーム」から書くそうですから、私たち翻訳者も、それをほんの少しだけ、取り入れることが、できると思うのです。

 

なお、拙著にはそのあたりは詳しく書いていませんが、翻訳に入る前に、必ず「クレーム」(と、理解のために「図面」)を見る、ということだけは、書いています。

 

ちなみに、この「クレーム」を明細書翻訳の際に必ず見る、という作業は、なかなか、翻訳者には、面倒なことがあるようです。

 

私は、これを日常的に義務づけるためにも、わざと、「タイトル」と「独立クレーム」の主題の関係を確認するよう、自分に義務づけています。

 

もしも翻訳に急いでいて、クレームをじっくり読んでから明細書の翻訳に入りづらい時であっても、「タイトル」は必ずはじめに訳しますから、そのときに、クレームと対応付けて確認する癖をつけておけば、そのついでに、クレームも、読んでおくことができます。

 

実際は、「少し読む」ことに加えて、「クレーム英訳に少しトライしてみる」といったことも、全訳の前に、しています。ところが、クレームすべてを英訳するのはやはりはじめは難しく、従来技術から入って技術を理解しながら、そして実施例の内容も理解できた上で、結局は、「クレーム」を、訳すことになります。

 

さて、「クレーム英訳を挟む」、というのはどういうことかというと、ある程度、その案件の技術や発明のポイントが理解できた時点で、気が向いたところで、「クレーム」をざっと訳す、という段階を加えています。(案件によりますが)。

 

ところが、この段階では、たいてい、クレーム内でつながりにくいところや、まだ表現が確定していないところがあり、明細書との対応を確認しながらなんとか訳す、という作業で、終わることになります。

 

そして、しばらくしてから(つまり、実施例やその他の部分の英訳が概ね確定してきた時点で)、クレームを再度、「じっくり」訳します。

 

その際、名詞の単複から、あらゆる表現まで、実施例を頭に描きながら、和文が意図している権利範囲を頭に描きながら、じっくりと、「クレーム内」と「クレーム間」がつながるように、書きます。

 

さて、「クレーム」が決まった!(・・・本日の実際の翻訳です)

 

そうすれば、後は実は、とっても簡単。

 

それに合わせて、実施例を調整してリライトしていけば、良いだけです。実施例で「あれ?」「ん?」「一体何?」と確信が持てなかった点や、または和文のゆらぎなどに苦戦していた点についても、「クレーム」が決まれば、重要箇所とそうでない箇所も見えますし、とても楽に、「指針」を持って、英訳できます。明細書のサポート要件、といったところも、自然に、確認ができます。

 

本日の翻訳案件は少し難しいものでしたので、この「クレームを決める」というところが、実際に、「実施例」のリライトに、とても効果的に、働いています。

 

 

・・・と、こんな感じで、ケースバイケースではあるのですが、私もほんの少しずつ、進化しているかもしれません。

 

つまり、「誰がやっても同じ順序でしょ」と思っていた浅はかな自分から、自分なりに、少しのアレンジを加えて、「クレーム」が翻訳手順のはじめと真ん中と最後に位置するよう、つまりは、「クレーム」に重きを置いた、「クレームがすべて!」という本来の翻訳へと、ほんの少しですが、近づけることが、できつつあるように思います。

 

 

最後に、今、拙著「外国出願のための特許翻訳英文作成教本」を出版して、丁度1年となりました。

 

読者の方々に感謝をするとともに、書籍をヒントとして翻訳してくださる皆様、どうかご自身で各種アレンジを加えていただいて、よりご自身で納得される、より良い英文明細書へと、進化させていただきたい、と思っています。

 

この1年、私自身は、拙著に書いていた内容を、各種、アレンジしています。

翻訳の方法も、少しずつ、変わってきていることもあります。(「核」は変わっていませんが)

 

「Faberみたいに毎年アップデートを出せば?」、などども、先日の名古屋セミナーで言っていただきましたが、さてさて、私自身はそれほどの体力がなく、地道に自分自身をアップデートしながら歩むので精一杯です。

 

1年、経ちました。

ここに自分が元気に特許翻訳できていることに、感謝の気持ちが湧き出てきます。