ユー・イングリッシュ

ユー・イングリッシュ 中山裕木子 ブログ

弊社 化学の先生とのお別れ


弊社では、「文系翻訳者のための技術講座」を、社内で開催しています。

 

「電子電機」の講座(月1回、2時間の開催)では、回路素子、デジタル回路、アナログ回路、といった一連の内容を1年かけて、日本語で専門の先生に講義いただくことで学びました。

本年度は、英語の本(書籍名:Electronics Circuits and Systems)を使って、各自が内容を理解して説明し、講師の先生に確認をいただき、補足講義もいただく、という方法で、2年目の講義の終盤へと、向かっているところです。

 

はじめは「真理値表(しんりちひょう)」と聞いても、「しんにち?」「しんりち?」と、日本語自体が聞き取れなかった私たちでした。

 

しかし、頑張ってきた参加者は、今は、回路図が読めるようになったり、真理値表を使って、NOR回路やAND回路の値の結果を、しっかりと自ら導き出せるまでに、成長していることを、先日も確認しました(素晴らしい!)。

 

電子電機の講座に加えて、「化学の講座」。

こちらは、2, 3か月に1度のペースにて、お願いをしてきました。

 

「化学の講座」では、O大学の名誉教授が、私たちのために、お運びくださっていました。

 

人生の大半を講義と研究一筋に執務してこられたという先生の講義資料は膨大で、また私たち英訳翻訳者にとって分かりやすいように、また業務に役立つようにと、英語での資料を、ご準備くださっていました。

 

化学講座は、昨年9月に第1回を開始いただき、第5回を、つい先日、6月に、開催いただいたところでした。

全7回のコースを作成くださり、残り2回の資料も、すでに、いただいていました。

 

教育者としての先生の言葉には、次のことが、ありました。

 

●よくできる生徒に教えるのは、簡単なんですけれど、「わからない人に、わかるように、教える」ということには、工夫がとても生きてきますし、とても面白いんです。やってみて、だめだったら、では次はまた別の工夫をしてみよう、というようにします。だめだったら、こうしてみよう、という工夫の過程は、とても面白いものです。

 

●「化学」というのは、見えない現象を、あたかも「見える」かのように、説明をすること。機械のように手に取って扱える分野とは、全然違います。そこに「化学」の面白さがあります。

 

●座って講義をしたことが、一度も、ありません。必ず立って、生徒の様子を見ながら、講義をします。

 

 

そして、先生が、教えてくださったこと:

●世の中のすべては「化学反応」から成り立っている。

(これは私が勝手に学んだことですけれど、私たちの体の中から、DNAの構造から、何もかもが、化学反応である、ということを、先生の講義を通じて、知りました。)

 

理解の悪い私たちにも、根気よく、やさしく、そして大きな心で、教えてくださっていました。

 

先生による、AlcoholsとAlkanesの資料。ほんの一部、です。どなたでも、学習目的にて、ご使用いただけますと幸いです。
シンプル英語の宝庫の資料から引用いただいています。(主にUsborne Illustrated Dictionary of Scienceという書籍から引用いただいています。「カラフルで、見ているだけで楽しいですよ」と、ご紹介いただきました。)

 

Alcohols

Alkanes

 

 

さてそんな先生に、私は、2012年に、初めてお会いしました。
技術英語教育の一環で、工業英語協会の専任講師として、私が担当することになった講義での、専門の先生、というお立場でした。

 

工業英語協会による一連の講義を通じて、先生は「工業英語」に開眼された、とのことでした。

「長年研究者として接してきた英語に、このような領域があるとは驚いた」、という感想をくださって、工業英語の考え方と技法を、気に入ってくださり、評価してくださいました。

 

そしてそれ以来、私の仕事を、全力で、後押ししてくださっていました。

 

具体的には、「こんな英語の分野がある」「こんな先生がいる」「理系の学生に必要な英語がある」と、ずいぶん色々な方に、お手紙などを書いて、通知をしてくださっていたそうです。

ありがとうございました。

 

そして普段私は、誰に対してもかなり心を閉ざしているほうなんですけれど、先生とは、本当に、色々なお話をしました。30歳年の離れた私の話を、大きな心で、よく聞いてくださっていました。

 

先生の歩まれた壮大な人生・・・。

最後のたった5年でしたけれど、ほんの少し、お仕事にてご一緒させていただくことができて、大変、幸せでした。

ありがとうございました。

 

 

先生が残してくださった技術資料を、勉強していました。

次回にご予定くださっていた資料より、学びたかったPVDとCVD(薄膜形成の蒸着法)…

 

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Vapour Deposition Method

In physical vapour deposition (PVD), the material is vaporised by heat in a furnace or by pulsed lasers. The vapour is then condensed on a cool surface. For example, single-wall carbon nanotubes can be prepared by vaporising a carbon target in a furnace at about 1500 K using a laser and allowing the vapour to condense on a cool surface. An inert gas is bled into the reactor during the process to prevent oxidation of the carbon vapour.

 

In chemical vapour deposition (CVD), a reaction occurs in the vapour phase between two or more materials and/or the vapour reacts with the target material.

 

上の図がPVD, 下の図がCVD

(引用先はThe Essential Chemial Industry online:英The University of Yorkの学習サイトです)

*****

 

 

そして自分は、この先自分に残された限られた時間を、どのように生きていくべきか、そんなことを、静かに、考えていました。

 

 

そのようなわけで、ブログの更新に、時間が空いてしまいました。

 

ブログをお読みくださり、ありがとうございました。

「翻訳製品」には「工業製品」と同じ製造工程を


翻訳という作業は、「日本語を英語にする」、つまりwritingの工程がすべてのように、思いがちです。

工業製品と比較すると、製品を「組み立てて作成する」という過程だけが、「翻訳」という製品を作るにあたってのメイン作業であるようにとらえてしまいがちです。

 

その結果、「翻訳して(=書いて)、終わり。納品。」ということが、あるのではないかと思います。

 

「工業製品」を作るときには、「組み立てて作成して終わり、出荷。」、ということは、ないはずです。

製品を作る前には、製品のユーザを分析し、綿密な計画を立て、試作を行い、試作品をテストするでしょう。

そのような過程を経て完成した製品は、出荷し、流通すればそれで終わり、ではなく、流通した後も、今後のさらなる改良のために、ユーザのフィードバックを得る努力をするでしょう。

 

ところが、「文書の作成(翻訳含む)」となると、そういった手順を想定することなく、書き手が計画せずに書き始め、短期間で書き上げてしまい、それで終わり、ということがあると思います。

 

しかし翻訳という商品にも、工業製品1つを仕上げるときに相応するような過程が必要であると、考えています。

 

工業製品の作成工程:

  1. User analysis
  2. Design
  3. Production
  4. Testing
  5. Shipment
  6. Review based on feedback, and improvement

(*個人的な定義をしています。)

 

翻訳製品の作成工程:

  1. Reader analysis
  2. Planning
  3. Writing
  4. Testing
  5. Submission
  6. Review based on feedback, and improvement

(*こちらも同様に個人的な定義です。)

 

ユー・イングリッシュの製品の一つは、「翻訳文」です。

ユー・イングリッシュでは、上の工程をきっちりと踏んだ「翻訳製品」へと仕上げることを目指します。

 

現在は、工程3.~6.には、力を入れることができていると思います。

特に3. Writingでは、執筆+複数回のリライト、4. Testingでは、複数名による多観点からのチェック(testing)を、実施しています。

また、6. も、品質改善を目指して、できる限りの努力をしています。

 

現在は、1.Reader Analysisと2. Planningの部分が、弱いと感じていますので、この部分を強化できるよう、努力していきたいと思っています。

1.と2.について、具体的には、1.では読み手に応じた用語の抽出、また、「読み手のために書いている」、ということについての翻訳担当者の意識の向上、などがあげられるでしょうか。

2.では、明細書の全体像を把握して翻訳にあたれるよう、補足資料を事前にとりまとめて翻訳担当者に提示することや、または、現実問題としては、2. Planningにあたる工程を3. Writingの後に移動して、事後的に、翻訳担当者が「この明細書の発明のポイントは、こうである」、という技術の内容と、そして「翻訳にあたっては、この点が難しかった」という英語表現上でのポイントの両方をプレゼンテーション(説明)できるようにする、といったことを、考えています。

なお、2. Planningを3. Writingの後にまわす理由は、私たちの仕事は「文書の執筆」ではなく「文書の翻訳」である、という性質上、文書の中身をPlanningすることは、できないためです。ですから内容のPlanningというよりは、内容の事後確認、というようになるかもしれません。

 

さて、実際に品質が落ちてしまうのは、上記1~6のいずれかの工程が欠けた、またはいずれかの工程が手薄になったとき、であることを、十分に、理解をしています。

万が一そのようなことが生じた場合、原因工程を特定し、詳細な原因の究明と、早期の対策を講じる必要があります。

また、万が一そのようなことが生じた場合には、1~6を再度本気で見直し、それに沿った「案件のやり直し」が必須です。

 

この「技術文書の作成にあたり、1つの工業製品」を作成するのと同じ過程を踏む必要がある」、という考えは、十数年前に出合い、感銘を受けたアイディアです。

拙著「技術系英文ライティング教本」(2009年)にも、その基礎について、書きました。

 

早い時期にこのアイディアを知ることができたのは、大変、幸運でした。

現在は、私自身は、実際に「会社の製品」としての「翻訳」に、この過程を適応することについて、試行錯誤を繰り返しながら、理想に近づけるよう、努力しています。

 

本日翻訳文のリライト中、また「特許翻訳はドキドキする」という感覚が生じていたとき、なぜこんなに自分は「特許翻訳」を「好き」と感じるのかを、自分で分析していて、この「過程」のことに、想いが達しました。

 

私個人は、過去にいろいろなことが苦手で、器用なほうではなかったため、この「きちんと過程を踏めば、特殊な能力がなくても、できる」、「鍛錬、練習、そしてきちんとした理論にそって、過程を踏むことが重要」、という点こそが、私が特許翻訳を好きになった理由なのではないか、ということを、思い出していました。

 

そんなことを思い出しながら、いかにユー・イングリッシュの翻訳品質を安定させ、高めていくか、ということを、今日は、深く考えていました。

 

今年は本気で、その基盤作りに、取り組みたいと考えています。

 

各工程に関わってくださっている方々に、心より、感謝しています。

各人が必ず持っている、その人だけの「強み」。

それをそれぞれが、生かしてくださっていると感じ、信頼しています。

 

また私の2ヶ月前からの「呼びかけ(ブログ)」に応答してくださった新しい協力者の方々にも、とても感謝と期待をしています。

よろしくお願いいたします。

 

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